|
Vol.01 - 2010年06月19日
ある先輩の紹介で似顔絵を描く人がやってきた。予め話は聞いていたが、院長室を尋ねてきた人があまりにも若いので些か拍子抜けした。村岡ケンイチ25歳と名乗ったその人は大きな袋かばんを持参し恐縮して座った。今までの実績として、介護施設や緩和ケア病棟で患者さんの似顔絵を描いてあげると、本人が喜ぶだけでなく、周りの見ている人々にも、「あ!似てる」とか「面白いね」とか「可笑しい」と笑いが起こるとの事だった。
この話は一人で聞くのは勿体ない。看護部長さんを呼んだ。一緒に話を聞くうち、「私達も描いてもらえるんですか」と看護部長。「勿論です。」と言うが早いか先ほどの袋カバンを開けて、部屋のテーブルの上にクレパスを並べ始めた。画用紙を数枚取り出し、「それでは院長先生から」。「背広を着ましょうか。」「そのままで結構です。」
途端に、今まで緊張しながらもにこやかに話していたケンイチさんが、しゃきっとした顔になり画用紙に向かって鉛筆を走らせ始めた。今度はこちらが緊張する番だ。向こうが
話さなくなったので、当方は手持ち無沙汰だが話し掛けるチャンスがない。ノー天気な看護部長さんは「へー、早く描けるんですね。」とか「色は何時付けるんですか。」などと聞く。数分経過して、それまで適当に返事をしていたケンイチさんは、やっと柔和な顔になり、「もう大丈夫です。似顔絵は素早く特徴を掴んで一気に描くんです。」 |
|
|